村上龍『空港にて』を読んで

小説の感想を書くのは初めてになります。
読書メーターの感想欄では書ききらなかったのでこちらに書こうと思います。

どんな本?

この本は村上龍に書かれた短編8作が載っている短編小説です。
1作あたり2、30頁と短いですが、流石芥川賞受賞作家でしょうか、一文一文のインパクトは非常に強く純度は高いです。

8作の中で一番衝撃を受けたのが表題でもある『空港にて』、次点で『駅前にて』です。
まだ一回しか読んでないので変わるかもしれませんが、上2作は本当に凄いとしか言えません。

『空港にて』

主人公はわたし、4歳の子を持つバツイチの女性。
この女性が空港でサイトウという男性を待ちながらそれまでのことを振り返るというストーリー。
わたしは2年前に夫と離婚してからなんとか生活していかなければならないと考え、職を転々としてきた。
ガソリンスタンドのアルバイト、スナック店員、そして風俗嬢、そこでわたしに惚れ込んだのがサイトウという男性だった。
サイトウと何度も合う内に主人公は自分のこれまでの人生を語る、
そこでふと映画のポスターを見て地雷で足を失った人に義足を作ってあげたいと思ったと告げる。

わたしは軽い気持ちで言ったことだったが、サイトウは「だったら義足を作る仕事をすればいいじゃないか」と答えた。
わたしはびっくりして、そんなの無理だよと言ったが、サイトウは「どうして無理なんだ?」と尋ねた。
高卒でバツイチで子持ちで風俗で働く自分に義足なんて作れないと答える。
サイトウは「原因が分かってないと、問題は絶対に解決できない。けれど自分の何が問題なのか知ってる」と答え、
義足を作るのには国家資格が必要なこと、そのために必要な勉強や専門学校など資料を集めてきてくれた。

そして現在に戻り、サイトウが待合場所に来る所でこの短編は終わる。

願望と希望

「真剣に考えるのが怖かった。どうせすぐに諦めなければいけないと思ったからだ」
主人公の台詞であるがこれはとても強く共感した。

自分のやりたいことや叶えたいことを真っ直ぐに目指すというのは、とても大変なのではないかと思う。
億万長者になりたいとか荒唐無稽なことは口に出せるのに、自分の手が届くか届かないか分からないところにあるものを直視することはとても勇気が要ると感じる。
まさしく、自分が叶えられるかどうかを知るのが怖いからだ。叶わないと知った途端、それが失われることが酷く不安なのだ。

作中のわたしはサイトウと出会い、サイトウに話したことで義足作りという願望が現実味を帯びてきたというところで終わる。
別の作品か何かで見たかは覚えていないが、作者の村上龍は結構行動することに関して積極的だったと思う。
行動しなければ決して手は届かない、ということを読者に伝えたいのかもしれない。