小林泰三『完全・犯罪』を読んで

SF・ミステリ作家の小林泰三の短編集「完全・犯罪」を読んでの感想です。

全体の感想

短編5作品を収録した短編集。ジャンルはSF、ミステリー、ホラーと多種多様。
特に好きなのは「双生児」「隠れ鬼」

双生児は一卵性双生児の双子の話、『私たちはあらゆるものを共有していた。』の一文が最後のオチの伏線になっているのは見事。ホラー色が強いSF

隠れ鬼はホラー。ある日浮浪者に追われた体験で、子供の頃の鬼ごっこの出来事を思い出す。鬼ごっこの背景に関する考察がとても面白い。鬼ごっこに明確なルールはない、だから明文化はされず子供達の阿吽の呼吸によってルールが作られる。このルールを利用することで一人の子供をいじめることができる。というのは納得してしまった。


以下、作品ごとの感想になります。

「完全・犯罪」

タイトルからミステリかと思いきやSF。タイムトラベル理論を先に発表されてしまった、そのために過去の博士を殺そうとする。
過去の博士を殺しても何も変わらないどころかおかしなことになる。そのために基本原理が挙げられる。

  • 第一の基本原理:過去は変わらない
  • 第二の基本原理:未来は変わる

作中でもタイムパラドックスめいた出来事が起こるが、矛盾はしていないとなる。そもそも過去か未来かということは観測者の視点から見た過去未来なのだ。観測者の視点がないということはありえない。視点がなくなれば過去、未来の区別や時間は必要なくなるからだ。

観測者がなければ存在しないというのは「影の国」に通じるところがある。時間も同様に観測者がいなければ存在しないということだろう。

最後は時空博士たちが歴史改変の防止を目的とするために結成する。
このオチも秀逸。

後のタイムパトロール隊結成の瞬間である。
だから、『後』っていつだよ?

「ロイス殺し」

うってかわってこっちはミステリ
ロイスという男が自殺したという幕開けから始まる。
トリック自体は自殺に見せかけた殺人で、成功するか失敗するかは不安定なもの。しかし殺人が成功すればよし、失敗しても賭けによる金をもらえるというものだった。

「双生児」

双子の女性の話。ホラー要素が強いかつSF?
その双子はあらゆるものを共有していた。服も、食器も、歯ブラシも、そして名前も。ある時は私は「真帆」であり、時々「夏帆」担っていた。
そして、そのねじれがきっかけである男性を巡り爆発してしまう。

双子の名前が決まらず、両親が間違えていたのではないかと時々錯覚する。その裏側には実はネタがあった。
両親は双子の違いを区別できたいた。しかし、双子の精神が不安定だったため、肉体さえも共有していた。両親は肉体と名前のつながりは分かっていた、しかし、肉体と精神が時々入れ替わっていたために、両親が判別できていなかったのではと思うようになった。
そのため、ラストは精神の入れ替わりによって、死んだ者の精神が生ける者の肉体を乗っ取るというオチになっている。

『私たちはあらゆるものを共有していた。』の一文が伏線になっていた。共有していたのは名前だけでなく、肉体も共有していたということだった。

「隠れ鬼」

子供達が遊ぶ隠れ鬼をテーマにしたホラー
ある日浮浪者の一人に目をつけられて追いかけられる目にあった主人公。それを鬼ごっこみたいといい、鬼ごっこに隠された背景について考えてゆく。そうして主人公は過去にある一人の子供をみんなでいじめていたことを思い出してゆく。最後のオチは世にも奇妙な物語みたいな感じ。

鬼ごっこの背景についての考察はとても面白い
鬼ごっこに明確なルールはない、それでもゲームとして成立していたのは子供達の阿吽の呼吸によるものだった。だから時々ルールを逸脱してバランスが崩壊してしまうことが往往にしてある。
さらに子供達の立場が偏っている場合にはさらに壊れる可能性を秘めている。

「ドッキリチューブ」

てっきりチューブはひねり出す方のチューブかと思っていたが、実はyoutubeのチューブだった。インターネットが普及したことにより一般人でもたやすく動画を公開できるようになった。そこで、主人公たちはドッキリを一般人に仕掛けてその動画を公開するビジネスを行っていた。あるドッキリを仕掛けたとき、仕掛けられた男性と女性が破局してしまい男性が怪我を負うということがあった。しかしそれはそちらのトラブルだからしょうがないという。

因果応報のような話。